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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

風鈴の鳴る頃に

夏特有の蒸し暑い風が吹くドランザニア中部の夏の昼下がり。
暑さで若干参っている氷燐と、勝手にどこからか出したタライに水を張って水遊びするウラヘムト。
ゴルダはこんな暑さの中でも畑で野菜を収穫中で、アルガントはゴルダの部屋でネットをしている。

「暑くないのかい?」

「暑いが水分と塩分を摂取してれば熱中症にはならんよ」

上は肌着、下はいつものズボンというおかしな格好で野菜を収穫しているゴルダに氷燐は暑くないのかと聞く。
だがゴルダは水分と塩分さえ摂取してれば暑いが熱中症にはならんと返す。
一方ウラヘムトは、氷燐とゴルダ無視してなおも水遊びを続けている。
バルコニーには風鈴がいくつか下げられていて、時折チリンチリンという音を奏でていた。

「そういえば、冷凍庫に氷があったはずだ。かき氷を作るか」

野菜をウラヘムトが入っているタライの横に置いて、ゴルダは家の中へ。
家の中は、相変わらずと言っていいほどまだ洗っていない汚れ物が籠に積まれている以外は特に変化はない。
流しの生ゴミ入れは空っぽで、ゴルダが料理の後にその都度処分しているのがよく分かる。

「さて、氷はどこ…ないだと?」

冷凍庫を開け、氷はどこかと調べるゴルダだが、昨日入れてあった氷用の容器が消えていた。
割と大きめに作っていたので、丸ごと使ったとは考えにくい。
そして、ゴルダは心当たりがある者を思い出し、またバルコニーへ。

「おい、冷凍庫の氷はどうした?」

「ほえ?あんまりにも暑いからこのタライの中に入れちゃったよ」

ゴルダが氷はどこだと聞いたのは、まぎれもないウラヘムト。
ウラヘムトはいきなり氷はどこだと聞かれて面食らったが、正直にタライの中に入れたと話す。
その直後、ウラヘムトがゴルダからげんこつを食らったのは言うまでもない。

「仕方ない、氷かアイスを買って来るか」

と言って、ゴルダは上を着替えると軽トラの鍵を持って外へ。
そしてそのまま乗り込んで出かけて行った。

「ドランザニア中部には現在、高温注意報が出されています。不要不急な外出は控え、水分補給をしっかりして熱中症に十二分に警戒してください」

ラジオから流れるニュースを聞きながら、エアコンを強めにしてゴルダは農道を軽トラで走る。
こんな時に外を歩いている者など一人も居らず、軽トラの魔力エンジンの音だけが辺りに響いている。

やがてゴルダは、家から一番近いスーパーへやって来た。
車は少ないながらもポツポツ止まっていて、完全に買い物客が居ないわけではないようだ。
軽トラから降りた瞬間、外と車内の気温さに顔をしかめながら店内へ。
そして真っ直ぐ冷凍食品などのコーナーへと向かった。
だがここで、ゴルダの携帯が鳴る。
携帯を見ると、メールが来ていて送信者はエシュフィルトとなっていた。

「『アイス作ろう』?タイミングが良すぎないかあいつは」

アイス作ろうと一言だけ書かれたメールを見て、ゴルダはタイミング良すぎないかと思いながらも

「こんな暑い中来させるのか?分かった行く」

という返事をエシュフィルトに返してスーパーを出る。
その帰り道、ゴルダはこの暑さの中シアがどう対策しているかが気になっていた。
だが、そんなことを気にしても面白くはないとすぐに考えるのをやめる。

「ただいま」

「アイスー」

その後何事もなく家へ帰りつき、玄関を開けるとアルガントがアイスをねだるように近寄って来たので、ゴルダは買っては来てないと言う。
それを聞いたアルガントは、ちぇーという顔をして部屋へ戻った。
だが、ゴルダはその後すぐに3人を連れてセイグリッドへと向かった。

「なんだこの風鈴の数は」

「鳴る数が多いほどいいでしょ?」

塔の上に大中小様々な風鈴が下げられており、中には魔道具としての風鈴まである。
その魔道具の風鈴とは、鳴る度に周りの気温を本当に僅かながら下げるというもの。
ただし、手で鳴らすなどのズルをすると逆に気温が上がるらしい。

「さて、どう作る?」

「材料はもう混ぜて後は凍らせるだけなのよ父さん」

「おいおいおい」

どう作るのかと聞いたところ、既に素は出来ているとエシュフィルトに言われたゴルダはおいおいおいと返す。
だがエシュフィルトはそれを意に介さず、ゴルダに素が入った容器を持つように言う。
はて?とは思いつつも、ゴルダが容器を持っているとエシュフィルトがいきなり飛び上がって

「それしっかり持っててよ父さん!」

何らかの氷属性の魔法を放って来たのだ。
しかもその魔法はピンポイントに容器を狙っていたので、ゴルダが凍ることはなかった。

「でーきた」

「制御がよりまともになったか?」

程よい硬さに凍ったアイスを見ながらゴルダがそんな事を聞くが、エシュフィルトは何も答えない。
それに何なんだよと思いながら、黙々とゴルダは盛り付けてエシュフィルト達に渡すが、氷燐だけは

「普通の削り氷でいいのだが」

削り氷がいいと言ってきたので、エシュフィルトはどこからか氷を出してゴルダに削らせる。
ゴルダは常備しているナイフを使い、氷燐用の容器に氷を削って行く。
丸ごと一つ削り終えると、何も言わずに氷燐はその削り氷にがっついた。

「なんだ、お前ら先に食ってたのかよ」

「おいしいわよ?」

気付けば先に食べていたシア達を見て、ゴルダが先に食ってたのかよと言うとシアはおいしいわよと言う。
だが、さらに気付けば自分のと取り分けていた分がシアに食べられていたのでゴルダはしてやられたという顔でチリンチリンと鳴る風鈴の音を聞きながら煙草のようなものを吸っていた。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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