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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

合う合わないの見極めこそ困難である

その日の朝の会議で、フィルスはアルガティアから次のようなことを言い渡される。

「あなたの司書長と図書館責任者の負担を減らすために、
 前に話していた司書実務経験者を副司書長兼責任者候補として1人採用した。今日から出勤なので中途採用前提での研修よろしく」

なぜアルガティアが中途採用で副司書長兼責任者候補として採用したのか?
それは以前フィルスがアルガティアに、自身の図書館関係の仕事負荷が大きすぎて文部大臣諸々の仕事をするのが難しいと相談を持ち掛けたことまでさかのぼる。
この相談を持ち掛けられた際、アルガティアは確かにフィルスへの負荷が大きいことを懸念。
だが、バカ真面目なフィルスはそれをほぼ口にせず黙々と仕事をこなしていたので、アルガティアももう1人採用するといった考えは保留。

「さすがに文部大臣絡みの仕事まで加えると首が回らなくなってくるんだけど、1人増やしてくれないかな?最低でも司書の実務経験があるものを」

リフィル王宮図書館は、フィルスの下に2人ほど司書が居るものの、その2人は司書長や責任者を補佐させられるほどのレベルに達していないとして
フィルスが司書長と責任者を兼任して図書館を管理していた。
最初はそれでよかったのだが、アルガティアが唐突にフィルスを文部大臣的ポジションへ任命してしまったためにフィルスの仕事量と負荷は増加。
前述したとおり、フィルスはバカ真面目なためそれでもどうにか文部大臣などの仕事もこなし、たまに仕事の量が多すぎるなどの文句は言っていたが
「無理」の一言を言った試しはなかった。
その後、とある一件によりフィルスの仕事が今までにないほどに増加したためにフィルスもさすがに

「これ以上は1人で回せないのでもう1人入れてくれ」

と相談したのだ。

「ところで、アルガティアが採用試験を全部やってたから僕はどんな人が入るのか分からないんだけど」

アルガティアからは雇用条件として月約40万(注、総支給額)の給与に、賞与を最低給与3ヶ月、
その他福利厚生諸々を聞かされていたが、実際にどんなものを採用したのかは聞かされていない。

どんな人が入るのかという問いに、アルガティアは今回入って来るものが書いてきたと思わしき履歴書と実務経歴書を差し出す。

「セイグリッド王立大卒業、そこで司書の資格を習得。カルコンドラという世界のベルヴィアディット王立図書館で司書を60年。
 総責任者ではないものの責任者と司書長補佐の経験あり。
 翻訳魔法は幻獣語レベル(訳注、ほとんどの言語に対応可能)まで」

この世界の採用文化は本人の写真を求めないことが多いが、複数の姿を有している場合はそれぞれの姿の写真ないし、その類のものを用意させるという文化。
また、本人が用意しなくても採用担当者が念写魔法などでその姿を別で記録していることもしばしあるという。
今回も採用者だけはアルガティアが念写で姿を記録していたようで、念写紙がアルガティアから渡された履歴書と実務経歴書の間からはらりと落ちる。

「有毛種の竜族?パッと見た感じはこの世界では使い手が居ないに等しい星属性を使えるようにも見えるけど」

念写氏に書かれた姿は、星形の瞳孔に角が生えた有毛種の竜族。
フィルスの一言にアルガティアはこうとだけ答える。

「星と闇の有毛種竜族、氷と精神属性の幻獣族の間に生まれた混血種の子。額の角は核石が角へ変化したもの」

それだけ分かればいいと思ったのか、フィルスはそろそろ図書館へ行かねばと踵を返して会議室を去る。
フィルスのその態度にアルガティアは何とも思わないのかと思われがちだが、全く気にせず自分も会議後の朝の仕事へ。

「名前は、ケレスティッチェ=X(ザスティン)=エスポリンティーヌ。
 エスポリンティーヌ家って少数派の中の少数派属性の星属性を研究し、扱っていたはずだけど家系が途絶えてるはずなんだよな」

図書室へと向かいながら、なおも資料を眺めていると採用者の名前に目が行くフィルス。
エスポリンティーヌ家はセイグリッド地方の竜族の家系であり、フィルスも言っているように星属性を使い、研究していたという。
その先祖は闇竜の国アルヴァスの出身で、どの世代からかは不明だが少なくともアルヴァスという国が消える前にはセイグリッドへ移り住んで星属性の研究を始めたらしい。

「ザスティン家というのは聞いたことないから適当につけたミドルネームかもね」

資料を片付け、図書室へと入るフィルス。
一般開放前の時間1時間前には図書室へ行き、掃除が済んでいるかと今日の仕事の確認ののちに重要事項だけを共有する朝礼を行って開放時間を待つ。
それがフィルスの司書長兼総責任者としての仕事。
だが今日は、新しく中途で入ってきたものへの研修がある。

「念写された姿だけではどんな相手か分らない以上、会って話して見極めないとね。皆おはよう」

「おはようございます、フィルス司書長」

「すでに掃除は完了しています、おはようございます」

「フィールシェアノスンラッタチィ、アマルガンディッチ(訳注、カンチィアス語(この世界とつながりのある別世界の公用語)で『フィルス司書長おはよう』と言っている)」


3人の司書が挨拶を返し、その中で1人だけ挨拶を返さない有毛竜。
その竜こそがケレスティッチェ本人であった。

「話は聞いています」

手を差し出してきたケレスティッチェにフィルスは律儀だなと思いつつも同じように手もとい前足を差し出して握手。
その際、ケレスティッチェの手に肉球がないことにフィルスは気づいたが大したことではないのですぐに手を離す。

「さて、ケレスティッチェの紹介もしないといけないし朝礼をしようか」

そして朝礼を5分足らずで終わらせ、ケレスティッチェの研修を行うフィルス。
だがここで、ケレスティッチェがこの図書館の規則、他の国の図書館およびこの国の王宮図書館以外との連携に関する情報を把握していたので
フィルスはアルガティアから渡された資料に今一度目を通す。
そこには採用日と初出勤日である今日との間で1か月半近い間が開いていることを知る。

「この採用日から今日までの空白は何をしてたんだい?」

後は実務での研修しかないと判断しつつも、空白期間がどうしても気になったのでケレスティッチェにフィルスは問う。
その問いに対するケレスティッチェからの返答は

「司書であることを利用してあちこちの図書館などへ赴き、ここで働くうえで必要な情報を集めていました。アルガティアの指示で」

あちこちの図書館へ赴いたりして、仕事に必要な情報を集めていたとのこと。
しかもそれは、アルガティアからの指示だという。
それを聞いてアルガティアらしいと思いながらも、フィルスは実務面での研修を開始した。

「館外持ち出し禁止という意味での禁書、多くないです?」

禁書リストの整理をやらせていると、ケレスティッチェがあまりにも多くないかと言いだす。
フィルスは禁書が多い理由としてそのほぼすべてが魔法書で危険度が高いものもあり、その上借りたまま返さない盗人までいるからだと説明。
ケレスティッチェはその説明に一応納得したような顔をするが、この後言った一言がフィルスを渋い顔にさせた。

「ではその盗人を徹底的に追い詰めて取り戻した後に、処刑して晒し首にでもしてしまえばよろしいのでは?
 ベルヴィアディット王立図書館に居た時も魔法書を盗む輩は居ましたが、私が本にかけれていた盗難防止魔法で逆探知した上で本の所在を把握。
 盗人はとっ捕まえて斬首刑。その首は晒し首にされましたよ。なにせ盗みが殺し同様死罪になるような国でしたので」

裏が出ていないアルガティアでも、度が過ぎれば処刑やむなしと言いそうだが晒し首まではいかない。
だが、裏が出ていればそれはそれで分からない。
あの姉御肌の正確ならば自ら首を斬り、晒し首にしかねないからだ。

「盗みが死罪というと、リヴァルスと同じくらいか。あそこもあそこで法が厳しいし」

「下手をすると、リヴァルスよりも厳しかったかもしれません」

実務経験があるためか、実務面での研修もすんなり進んで昼の時間を迎えるとケレスティッチェの方から一緒に昼休憩に入ろうと誘ってきた。
だが、フィルスはさっさと片付けたい仕事があると言って先に入るように言う。

「ゆっくり話したいことがあるんですけどダメです?」

妙な目線を投げかけながらそう言われ、フィルスは一つ大きくため息をついた。
ご存知の方も多いと思われるがフィルスは緊急時を除いて邪魔をされるのをとても嫌う性格であり、
ケレスティッチェの行動はフィルスの仕事を邪魔する行為そのもの。

「一つ君に話していなかったねケレスティッチェ、僕は今みたいに緊急時などやむを得ない事情がある場合を除いて邪魔されるのが大嫌いなんだ。
 今回は知らなかったということ僕も抑えるけど、よっぽどのことがない限り集中しているときとかに邪魔するのはやめてほしい」

ケレスティッチェがそのフィルスの性格を把握しているはずがないため、
フィルスはやむ負えない場合を除いて集中しているときに邪魔しないでほしいと告げて一緒に昼休憩へ。

「食べないんです?」

「魔力が十二分にあれば1日3食とらずとも問題ないよ」

王宮の関係者が一堂に会して食事をとる大広間で、先に昼食を食べていたアルガティアと少し距離を置いて座ったフィルスとケレスティッチェ。
ケレスティッチェはサンドイッチを食していたが、フィルスは緑茶をすするだけで何も食べていないので食べないのかと聞いたところ、
魔力さえあれば3食食べずとも支障はないと返された。

「ところで気になったんだけど、エスポリンティーヌ家って星属性魔法研究してたよね。君も使えるの?」

「初歩的な部分であれば使えますよ。けど研究してた資料なんてほとんど残ってないうえに、残っている資料も縁切りした実家にしかないわ。
 だからやるなら基礎研究からやり直しね」

星属性魔法のことを話題に出した際、縁切りしているという言葉が飛び出てきたのでフィルスは耳をかすかに動かして反応。
ケレスティッチェはそれを見てさらっとフィルスに

「父方が星と闇、エスポリンティーヌ姓で死去。母方が氷と精神属性で私が異界の図書館司書になると言い出した時に縁切り。
 別世界で司書をやりたいって私の意見と、セイグリッドの図書館で司書をしなさいって母さんとの意見が分かれて、
 『私は異界で司書やりたいから親子の縁は切らせてもらう』って言って飛び出したの」

父方が死去、母方とは将来のことで意見が合わずに縁切りしたと話す。
なおフィルスはアルガティアが親代わりを務めていたので本当の親は分からない。

「そんなにさらっと言えるってことは、確固たる意志と覚悟を持って縁切りしたってことだよね?口調に未練がましさがないし」

「そういうことです、なので母さんがまだ生きてるかどうかも知らないしそんなこと眼中にもない。所詮他人です、血の繋がりあれど」

締めに恐ろしいことを言い放ったケレスティッチェに、フィルスはそうかいとその場を流す。
本を盗む輩は首を斬って晒し首にしてしまえばいいという発言を含め、敵に回すと色々厄介なことになりかねなさそうである。

「断言しておきますが、フィルス司書長と敵対するつもりは毛頭ないです。採用決定後にどういう相手なのかを調べてますので」

顔に出ていたのか、はたまた考えを読まれたのかは不明だがケレスティッチェの一言にフィルスはただ頷いて返事を返すほかなかった。
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