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氷竜の創作部屋

創作(一次・二次混同)の中でも特に小説を掲載

サジと竜医

大陸全土が異様に冷え込んだある日、ゴルダに依頼が舞い込んだ。
その依頼とは、迷い竜の保護だったのだが、ゴルダはどうにも嫌な予感がして仕方なかった。
一応、依頼が来たからには行かねばと指定された場所へと向かう。

「どこに居る?」

「そこだよ、居座られても困るからさっさと保護してくれ」

それから1時間くらいで、指定された場所へは着いた。
そしてあまり類を見ない寒さに渋い顔をしながら、ゴルダは依頼者に聞く。
やって来たのは、ゴルダの住んでいる中部からもっと北の地区のティサザ山のふもとの農場。
今年の収穫が終わって、畑は全て更地になっていて雪が被っていた。
その畑の外れにあるリンゴの果樹園のところにその竜は居た。

「こいつ、か」

その竜は、150センチくらいの身長で白い体毛とオレンジの髪と翼を持つタイプの二足歩行の竜。
少々警戒しているのかどうかは判然としないが、リンゴの木の陰からオレンジ色の目でゴルダをじっと見ている。

「おいお前、そんなところに突っ立ってて寒くはないか?」

ひとまずその竜に声をかけてみるが、返事は返ってこない。
どうやらドランザニア語が通じないようだ。
これは困ったと、ゴルダは言語を色々と変えて話しかけてみるも竜の方はゴルダをただじっと見ているだけで反応も返事もない。
そして、ゴルダが物は試しである竜語で話しかけてみたところ

「こんにちは、さっきから何言ってるのか分かんないから返事できなかったんだ」

竜の方からようやく返事が返ってきた。
これでいけるなと思ったゴルダは、その竜に対して攻撃しないことを示して目の前まで近寄る。
なお、ゴルダは170センチあるのでこの竜を若干見下ろす感じになってしまう。

「お前をとっ捕まえて何をしようってわけではない。正直に答えろ、いいな。お前この世界のものではないな?どこの世界から来た?」

竜に目線を合わせ、どこの世界から来たのかを問うゴルダ。
なおこの時点で相互翻訳魔法を適用させているので、ドランザニア語で話しかけている。

「…なんと言ったらいいんだろ、よく分かんないや。気が付いたらここに居たじゃあダメかな?」

竜は気が付いたらここに居たことと、自分がどういう世界から来たのかは分からないと話す。
ゴルダはそれには問題ないと返してから

「そういえば名を名乗ってなかったな。俺はゴルダだ、以降見知り置きを。お前は?」

名を名乗っていなかったことに気付き、いつもの調子で竜の目の前で両手を顔の前で合わせてお辞儀してから名を名乗った。
竜の方は、この人変な名乗り方するなと思いながらも

「えーっと、サジ。サジ=セファラス」

自らの名をサジと名乗った。
すると、今の今までオレンジ色の目だったサジの目が黄色くなる。
これを見たゴルダは、ほほうと呟くと

「魔力、視神経、脳の感情を司る部分。それらが強くリンクしている特性持ち…か」

などと独り言を言う。
これにサジはどういうことなの?とゴルダに聞くが、返事は返ってこなかった。

「なあサジ、ちょっとここを離れて別の所で話をしようか」

「うん、いいんだけど…」

「安心しろ、解剖するとかそういうことは絶対にしない」

別の場所で話をしようと言うと、サジが少し訝しむような表情をしたのでゴルダは改めて変なことはしないと言って安心させる。
だが、サジは会って間もないゴルダを完全には信用できないらしく、なおも訝しみの目線を投げかけていた。
そこでゴルダは、サジにこんな提案をする。

「なあサジ。このままだとお前を保護することもままならない。つまり何が言いたいかというと、相互的な信用を築こう。それにはそうだな…お互い嘘はつかないという約束をしよう。どうだ?」

その提案とは、お互いに嘘をつかないようにするという約束。
この提案には、サジは納得はしたものの

「…隠し事は?」

とぼそりと聞いてきた。
それもあったかと、ゴルダはしまったという仕草をしつつ

「それはお互いに言いたくないことは言わない、という方向でいいか?」

言いたくないことは言わないでいいかどうかをサジに問う。
これにはサジは二つ返事で了承した。
そしてゴルダはサジを連れ、ある場所へと向かう。
そのある場所とは、紛れもなくシアの所だ。

「んー…」

シアの所へ行くと、思った以上に深刻そうな顔でシアは待っていた。
サジは自分よりもはるかに大きいシアの姿を見てまた目の色がオレンジになる。

「どうしたんだ?」

ゴルダはサジに大丈夫だと言い聞かせてリラックスさせながらシアにそう聞く。
するとシアは、数分何かを考えて黙り込んだ後、口を開いてこう答える。

「サジと言ったかしらその子?実は…元いた世界を割り出すことが不可能な状態でね、本当に珍しい事例なんだけど」

なんと、サジが元々居た世界を割り出すことができないというのだ。
これにどういうことだとゴルダが聞くと

「なんと言ったらいいのかしら…正確には情報が断片化しすぎて今のままでは割り出すことができないということよ」

シアは、情報が断片化しすぎて今のままでは割り出せないと言い直す。
ゴルダはそれにそうかと言い、シアにこう言う。

「時間はかかっても構わんからとりあえずその断片化した情報を組み合わせて割り出してくれ。サジの面倒はその間俺が見る」

シアの方には割り出しをするよう頼み、その間のサジの面倒は自分が見ると言った。

「いいの?」

「1人増えたくらいで俺の生活は揺らがんよ、心配するな」

「だ、だったらいいんだけど…」

ゴルダが突然自分の面倒を見ると言いだしたので、本当にいいのかと聞くサジ。
それにゴルダは心配するなとサジの肩を叩きながら言った。
サジはいきなり肩を叩かれてその手を払いのけながらも

「…ありがとう」

と言ったという。
こうしてサジはゴルダのところにしばらく住まわせてもらえることになった。

そしてその日の夜。
ゴルダと共に家へやって来たサジは、見慣れないものの数々に少々興味を持っていたが、変に触るとゴルダに何を言われるかが分からないので、触らずに食卓の椅子へと座る。

「何か飲むか?」

「いらない」

何か飲むかとゴルダに聞かれ、サジは黄色い目でいらないと返す。
それにゴルダはそうかと答えて冷蔵庫から聖水を出して飲む。

「それただの水?」

サジに聖水のことを聞かれ、ゴルダは普通の水ではないことを話す。
するとサジが飲んでみたいというので、ゴルダは少しだけ飲ませることに。
そしてサジは、何の迷いもなくその注いでもらった聖水を飲み干す。
最初はなんともなかったが、突然サジの体が発光したかと思えばすぐ元に戻ってそれ以上は何も起きなかった。

「元々あった属性と聖水が反応したようだな」

ゴルダの一言に、サジはただただ首をかしげる。
こうしてサジの居候生活が始まったのであった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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